梅雨の福岡、午後七時。
 200人も入れば一杯になりそうな小さなホール。オールスタンディングの前2列目からおそるおそる後ろを振り返り、フロアにほぼ満員のお客さんを見てほっとする。  この蒸し暑さは、昼過ぎまでのどしゃ降りの雨があがったせいじゃないはず。ずっと待ちこがれていた彼らに、今まさに逢うことができるというみんなの想いで、会場の湿度はどんどん上がっていっていた。
 みんなの想いは、ただひとつ。ライダーズが、やっと福岡にも来てくれたんだよね!

 私が会場に着いたのは5時30分を過ぎた頃。チケットに押してもらった整理番号(後でこの番号順に並ぶそうだ)は65番。指定なしのライブだからって慌ててやって来たのに、この時間でも65番なんて。焦っていた気持ちがなえていくと同時に、今度は余計な心配ばかりが頭の中をぐるぐると回り始めた。
 この時間でまだこの人数なんて、ちゃんとお客さん集まるのかな?今日は最終日だけど、メンバーは疲れがたまってないかな?ライブレポート(本文)、ちゃんと書けるかな?
 ホントに、ホントに、ライダーズなのかな...?

 私の心配をよそに、時間も、人も、刻一刻と「その時」を迎えるために動き出していた。
 ムーン・ライダーズとしては、まさに10年ぶりの福岡公演。
 初めて生のライダーズを体験する私にとって、ここに集まっている人たちは、まるで砂漠で迷った旅人たちのようにも見えた。「ライダーズ」というオアシスを求めて、10年間、それぞれの方法で飢えや乾きと戦いながら歩き続けてきた人ばかり。
 そして、やっとたどり着いたオアシスで、一気に10年分の飢えも乾きも癒そうと躍起になっている。だって、多分、次のオアシスまでは、また10年歩き続けなくてはならないんだから。

 私は、前回の公演は機会を与えられながら惜しくも見逃してしまった。「きっと一生後悔する」と今までも思い続けてきたけれど、この思いは、今日のライブが終る頃、さらに深まるんだっていうことを、この時の私はまだ知らなかった。

 また、前出の人々とは対称的に、私の前(つまり、最前列)に立っているのは、ライダーズが始まった頃にはまだこの世にいなかった世代の少女達(おそらく中学生)。 「ダメよ、こんな所に来ちゃ。人生これからなんだから、もっと大事にしなきゃ」という、母親じみた感情とは裏腹に、「こんな年からライダーズに触れられるなんて、なんて羨ましいの」という、妙な嫉妬心が沸き上がってくる。
 いやいや、ライダーズを前に、男も女も若いも年寄りもあるもんですか。「誰もがボーイ、誰もがガール」なんだもんね?みんなが、それぞれのスタンスで思い思いに楽しまなくちゃ。

 そして、「その時」は訪れた。歓声の中、旗を振りながら登場する6人は、紛れもなく、待ちこがれていたあの人たちだった。
「ああ、ホンモノだぁ...」心のなかでそっとつぶやく。後は、頭を空っぽにして、むちゃくちゃに楽しむだけよっ!だって、ライダーズだもん!!